2014年9月19日金曜日

名医はこうやって育つ


足のことではずっと悩んできた。
こういうのは、親に似るようで。
足の裏の皮が堅く痛くなるとはさみで切るとか、
立つのが、歩くのが、こういうふうに苦手とか、
合う靴がなかなかなくて苦労するとか、合うんだ話が。

そんな母が、足の指の当たって痛いところを切ってくれと言った。
ええ?やだなあ…。
手探りで切っているけど、うまく切れない、
歩けないくらい当たって痛いときがある。
そうか、そんなに痛いなら、やるしかないか…。
手術を決断する、担当の医者のような気分?

テーブルにドン!
でっかい足!
手も大きいけど、足もしっかりしてるわあ。
指なんか私よりまっすぐだし、爪も大きい。
りっぱりっぱ。
人の足の裏をこんな近くで見るのは初めて。
というか、自分の足でさえ、ようく見ることはできないんだな。
人生初の「しげしげ」体験かあ。

あ、これか!
「こりゃ痛いわ!これ、魚の目になるとやっかいだよ〜」
人差し指の横腹に、外反母趾で曲がった親指の爪が当たってたこになってる。
人の足なんて嫌!という気持ちはどこかに吹っ飛び、
魚の目で苦労した経験を話しながら処置の仕方を考える。
気分はさながら「担当医」。
大きな爪切り、これがいい。
一気には無理。周囲から刃を入れる。
「これ、大丈夫?」「うん」
チョキ。ああ、こわい。
「これは?」「へーき」
少し分かってくる。
「今度は少し深くいくよ。これ、どお?」
左手で堅いところをつまみ、持ち上げて、刃を切り込みかけて聞く。
「痛い!切り過ぎないでよ!前にひどい目にあったんだから!」
分かってるよお。
芯が深いなあ、でもこれ、取っちゃったほうがいいなあ。
あっちこっちと刃を入れて、いよいよ本丸に近づいてきた。
慣れてもう、ビクビクはない。研修医は卒業だ。
うまくつまめた。刃の角度もいい。
グサっと一気にいけるんじゃないか?
「これいくよ!どお?!大丈夫?!痛くない?!」
ほとんど叫んでる。
「お前の押さえてる手が痛い!」
「だったら大丈夫ってことだよ!」
いや、違うか。
興奮から冷める。ふっとひと息。
力も入るよねえ。だってやっぱり怖いもん。

芯まで取れた。もう大丈夫。
「患者さん」もうれしそう。
「お前も同じ思いしててよかったよ」
やはり「患者さん」は、「分かってくれる」ことに安心するらしい。
最後はベテランの「名医」の気分。
あれから一ヶ月。
そろそろ「定期検診」してあげなくちゃ。

今朝はきゅうりを抜く。
「いっぱい、最後までありがとね」
と言いながら。