足のことではずっと悩んできた。
こういうのは、親に似るようで。
足の裏の皮が堅く痛くなるとはさみで切るとか、
立つのが、歩くのが、こういうふうに苦手とか、
合う靴がなかなかなくて苦労するとか、合うんだ話が。
そんな母が、足の指の当たって痛いところを切ってくれと言った。
ええ?やだなあ…。
手探りで切っているけど、うまく切れない、
歩けないくらい当たって痛いときがある。
そうか、そんなに痛いなら、やるしかないか…。
手術を決断する、担当の医者のような気分?
テーブルにドン!
でっかい足!
手も大きいけど、足もしっかりしてるわあ。
指なんか私よりまっすぐだし、爪も大きい。
りっぱりっぱ。
人の足の裏をこんな近くで見るのは初めて。
というか、自分の足でさえ、ようく見ることはできないんだな。
人生初の「しげしげ」体験かあ。
あ、これか!
「こりゃ痛いわ!これ、魚の目になるとやっかいだよ〜」
人差し指の横腹に、外反母趾で曲がった親指の爪が当たってたこになってる。
人の足なんて嫌!という気持ちはどこかに吹っ飛び、
魚の目で苦労した経験を話しながら処置の仕方を考える。
気分はさながら「担当医」。
大きな爪切り、これがいい。
一気には無理。周囲から刃を入れる。
「これ、大丈夫?」「うん」
チョキ。ああ、こわい。
「これは?」「へーき」
少し分かってくる。
「今度は少し深くいくよ。これ、どお?」
左手で堅いところをつまみ、持ち上げて、刃を切り込みかけて聞く。
「痛い!切り過ぎないでよ!前にひどい目にあったんだから!」
分かってるよお。
芯が深いなあ、でもこれ、取っちゃったほうがいいなあ。
あっちこっちと刃を入れて、いよいよ本丸に近づいてきた。
慣れてもう、ビクビクはない。研修医は卒業だ。
うまくつまめた。刃の角度もいい。
グサっと一気にいけるんじゃないか?
「これいくよ!どお?!大丈夫?!痛くない?!」
ほとんど叫んでる。
「お前の押さえてる手が痛い!」
「だったら大丈夫ってことだよ!」
いや、違うか。
興奮から冷める。ふっとひと息。
力も入るよねえ。だってやっぱり怖いもん。
芯まで取れた。もう大丈夫。
「患者さん」もうれしそう。
「お前も同じ思いしててよかったよ」
やはり「患者さん」は、「分かってくれる」ことに安心するらしい。
最後はベテランの「名医」の気分。
あれから一ヶ月。
そろそろ「定期検診」してあげなくちゃ。
今朝はきゅうりを抜く。
「いっぱい、最後までありがとね」
と言いながら。